環太平洋の「消滅に瀕した言語」にかんする緊急調査研究

A04 日本班

文法班の調査風景


秋田県由利郡鳥海町でのフィールドワーク

 (2001年6月26日〜7月1日)

調査の概要……研究代表者の真田信治、研究協力者の西尾純二、日高水穂を中心に調査チームを組み、2001年6月26日から7月1日にかけて、秋田県由利郡鳥海町において、方言の文法・表現法に関する調査を行いました。調査では、鳥海町生え抜きのインフォーマント22名に対し、質問票による調査(項目:活用体系、格・とりたて表現、可能表現、テンス・アスペクト表現、意志・推量表現、要求表現、待遇表現)を行い、うち3組4名に対して自然談話の録音調査を実施しました。インフォーマントの方々をご紹介いただくなど、鳥海町教育委員会から、多大なご協力を得ました。

 

位置・アクセス……鳥海町は、秋田県南西部、由利郡の南端に位置する、霊峰鳥海山の麓に広がる町です。秋田市からは、車で約1時間半、公共交通では、JR羽越本線秋田駅から羽後本荘駅まで約40分、鳥海山麓線に乗り換え終点矢島駅まで約40分、矢島駅からバスで10数分というアクセス方法になります。

 

歴史・沿革……近世の藩領制において、秋田県の大部分が秋田(佐竹)藩であったのに対し、由利郡は、亀田藩、本荘藩、矢島藩、仁賀保氏領、幕府領に分かれ、鳥海町は、北に隣接する矢島町、東由利町とともに矢島藩に属していました。矢島町が武家、町人の居住地域であったのに対し、鳥海町、東由利町はそれを取り囲む農村部の位置づけになります。鳥海町は、昭和30年(1955年)に川内村、直根(ひたね)村、笹子(じねご)村の3村が合併して鳥海村となり、昭和55年(1980年)に町制を施行して現在に至っています。町役場、中学校のある川内地区、鳥海山麓の直根地区は矢島、本荘方面との結びつきが強く、一方の笹子地区は東に接する雄勝郡羽後町、湯沢市方面との交流が盛んです。

 

 

人口・言語状況……鳥海町の人口は約7,000人、うち老齢(65歳以上)人口が2割を超える一方、幼年(14歳以下)人口は1割程度で減少傾向にあるという典型的な高齢化地域です。伝統的な方言を保持している高齢者の人口は1,000人程度と考えられますが、人口の流入が少ないため、由利地方の他の地域に比べ、この地域の方言のより古い様相を残す傾向があります。

 

方言の特徴……由利方言は、南に隣接する山形県庄内地方の方言と共通する特徴を多く備えていると言われます。推量表現のデロ(「明日も雨降るデロ(=降るだろう)」 cf.周辺方言では「降るベ」を使用)、原因・理由表現のサゲ・ハゲ(「雨降るサゲ/ハゲ(=降るから)傘持っていけ」 cf.周辺方言では「ハンテ」等を使用)などがその代表的なものです。一方、鳥海町を含む旧矢島藩地域では、「デロ」は用いられず、形容詞の推量形活用語尾である「ガロ」を、汎用の推量形語尾として用いる点が、他に見られない特徴的な表現として、これまで知られていました。「ガロ」以外にも、「〜するグなる」(≒するようになる)、「〜するガッタ」(≒していた(ものだ))、「〜したガッタ」(≒した・していた)など、形容詞の活用語尾が独立し、汎用の述語語尾になる現象が一貫して見られることが、この方言の特徴と言えます。

 


地域と調査の風景

    

    

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方言談話

 鳥海町猿倉・真坂マサヨさんの談話 「チョコレートを食べて糖の検査で糖が出た話」(1分21秒)

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