[あきた時評] 2003年8月2日

秋田のことば/信条込めた音声のすごみ


  過酷を極めた校正作業も7月初めに終わり、「CD−ROM版秋田のことば」(県教委編、無明舎出版)は7月15日についに発売された。ブックレット形式なので、書店で販売されている。発売後まもなく、秋田市内のある書店に様子を見に行った。
 一般客を装い1冊購入した。店員さんに「どうですか。売れていますか」と声をかけたところ、「うーん、ぼちぼちですかねえー」と、やや歯切れの悪い返事だった。まあそうだろう。CD−ROMというえたいの知れない(店頭では中身の確認ができない)ものを、店先で手にとってすぐさま買う人はそう多くはいないだろう。
 CD−ROM版の「売り」はなんと言っても、秋田弁の音声を堪能できることである。
 今回収められた秋田弁の語り手は一般公募の方を含め、160人を越えている。「辞書編」や「秋田県言語地図」などのコーナーもあるが、これらの元になる調査の回答者を含めると、実に400人近くがこのCD−ROMの作製に参加したことになる。上は明治38(1905)年生まれから、下は平成元(1989)年生まれまで。まさに21世紀初頭の「秋田弁の今」が詰まった内容となっている。
 「あなたの好きな秋田のことばで、ずっと使われてほしいものは何ですか」。こんな問いに対して、一般公募の111人の語り手たちが思い思いの「ことば」を挙げるコーナーがある。
 圧倒的に多いのが、「たもれ」「たんしぇ(たんへ)」という丁寧な依頼のことばで、全体の約4分の1の人がこれを挙げている。次に多いのが、「んだ」で、全体の約6分の1。あとは、「めんこい(めんけ)」「まんず(まんつ)」「しぇば(へば)」「がっこ」などが続いている。
 一番人気だった「たもれ」「たんしぇ(たんへ)」を挙げたのは、戦前生まれの70人中には23人いたのに対し、戦後生まれは41人中わずか4人だった。上の世代が「ずっと使われてほしい」と願う、この優しくやわらかいことばは、しかしながら、下の世代には同じようには受け継がれていないようだ。これも「秋田弁の今」の一面なのだろう。
 年配の方々が選んだ「ずっと使われてほしいことば」はことさら趣深い。
 大正生まれの峰浜村の女性はのどかな口調で「今日何すばー」とつぶやく。「今日は1日何をするかな」と、毎朝このことばを口にして1日が始まるのだろう。同じく大正生まれの比内町の男性は、ぶっきらぼうな口調でこう言い放つ。「人の立場でものしゃべれ」。人生の先達たちが将来に残したいと思って挙げたこのことばには語り手の生活信条が込められている。これが生の秋田弁で語られるところに、音声でこそ伝わる「すごみ」を感じている。
 

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