[あきた時評] 2004年2月21日

「砂の器」/方言手がかりに犯罪捜査


 松本清張原作の「砂の器」がドラマ化され、TBS系列で放映中である(主演・中居正広=犯人役)。先月の末、東京の国立国語研究所の知り合いから、電子メールがあった。放映中の「砂の器」に、国語研に勤めるMさんとYさんが刑事役の渡辺謙と共演している様子が映し出される可能性があるので、ビデオを用意して、という内容だった。

 「砂の器」は、方言が犯人捜しの手がかりとなる推理ドラマである。まず、東京で殺人事件が起きる。「被害者の男の言葉が東北弁だった」「被害者と犯人らしき男の会話の中に『カメダ』という言葉が聞き取れた」という証言が得られる。

 刑事は秋田県の亀田(岩城町)に捜査に向かうが、手がかりは得られない。その後、被害者の男の出身地が岡山県であったことが判明する。中国地方で東北弁が話されている地域はないのか。刑事は国立国語研究所に出向き−−と、ここで作業机に向かうMさんとYさんの姿が一瞬画面に映る−−東北弁とよく似た出雲弁の存在を知る。果たして、島根県仁多町に亀嵩(かめだけ)という地名があり、被害者の男はかつて、巡査としてその地に勤務していたのだった……。

 東北弁と出雲弁でよく似ているのは発音である。どちらの方言も、イとエを混同したり、シとスを混同したりする。ただし、カ行・タ行音が濁音化したり、本来の濁音が鼻にかかった発音になったりという東北弁の特徴は、出雲弁には見られない。文法や語彙(ごい)については、東北弁は東日本方言的、出雲弁は西日本方言的な特徴を持つ。というわけで、東北出身者が出雲弁を聞いても、東北弁だと思うことはないと思われる。ただし、東北地方や出雲地方以外の人が聞けば、出雲弁が東北弁に聞こえるということはあるだろう。

 ところで、犯罪捜査で、方言によって犯人の出身地を特定するということは、どの程度可能なのだろうか。実は、数年前に秋田県警の刑事さんから、問い合わせを受けたことがある。秋田弁のある表現の使用地域を問われ、その表現を使用する地域の範囲を答えたのだが、すでにその範囲は、捜査対象として絞り込まれていたようだった。さらに範囲を絞るには、手がかりとなる方言が少なすぎた。いや、たとえ手がかりが豊富にあったとしても、たとえば市町村単位というような狭い範囲に絞り込むことは、かなり特殊な方言でない限り、難しいことだと思う。

 あの事件はその後、どうなったのだろう。久しぶりにその刑事さんに、事件のその後を尋ねたところ、まだ解決していないということだった。事件の中身はいっさい聞かされていないが、そんなわけで、問い合わせの具体的な内容は、ここでは触れない。解決したら、詳しい話を聞かせてもらおうと思っている。

戻る