[あきた時評] 2005年12月3日

「えふりこぎ」の心―堅実を尊ぶ精神風土


 方言には、人の性向を表す語が豊富である。その中には、その土地の人々の気風を象徴するようなものもある。青森の「じょっぱり」(頑固者)、熊本の「もっこす」(頑固者)、鹿児島の「ぼっけもん」(大胆な人)などがよく知られているものだろう。
 先日、ある雑誌のライターの方から、問い合わせがあった。秋田で取材をしていたときに、「えふりこぎ」という方言を何度も聞いたが、これはどのような意味合いの言葉であるか、というものだった。
 意味は読んで字のごとく「いい振りをする人」つまり「見えっ張り」「ええかっこしい」。確かに、秋田の県民性を表すものとして、秋田の人自身がよく引き合いに出す言葉である。
 県外出身者の私の目から見ると、秋田の人が特に見えっ張りだと感じることはない。そもそも「見えっ張り」という性向は、他人に対する対抗心があって生まれてくるものだと思うが、秋田の人はどちらかというと、人と争うのは好まない傾向があるように思う。横並びであることに平和を感じ、のんびり暮らせることを幸せだと思う気持ちが強いのではないだろうか。
 「えふりこぎ」は、不相応な言動や身なり(おしゃれ)をしたり、いい気になって派手な振る舞いをする人を非難するときに使われるものであって、むしろ、秋田の人の堅実さを示す言葉なのではないかと思う。周りから「えふりこぎ」と言われないよう、堅実に振る舞う。この言葉は、こうして、秋田の人の行動を規制するものになっている。
 そう考えてみると、「えふりこぎ」と対になって、人の行動を規制する言葉があることに思い当たる。「かまけぁし」(破産者)という言葉がある。「えふりこぎ」が上昇志向にくぎを刺す、つまり「出るくいを打つ」ようなはたらきをする言葉であるのに対し、こちらは、堕落していく人、放蕩者をとがめる意味合いの言葉である。
 「かまけぁし」の「かま」は「竃(かまど)」で、家の中心部の象徴であり、「一家(家庭)」や「財産」を意味する。それをひっくり返すのであるから、「かまけぁし」は「破産者」、転じて「放蕩者」「何の役にも立たない怠け者」を意味するようになった。秋田出身の学生に聞いてみても、「あいつはかまけぁしだ」などと言われれば、「どうしようもないやつ」というレッテルを張られたようなものだと言う。
 堕落する者はさげすまれ、派手な振る舞いをする者は白眼視される。お互いがお互いを監視し合う中で、目立たないように、突出しないように気を配りながら、横並びであることを維持してきた。これが「えふりこぎ」と「かまけぁし」という方言から見えてくる、秋田の精神風土の一面であるのかもしれない。

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