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調査文] [調査地 青森(弘前)秋田岩手(花巻)福島(喜多方)中部地方近畿地方熊本

●仮定表現「〜バ」の適格性 ……青森(弘前)・秋田・岩手(花巻)・福島(喜多方)・中部地方・近畿地方・熊本

 仮定表現「〜バ」を含むいくつかの文について、適格性の判断をしてもらうアンケート調査を行った。調査地域は、@青森(弘前実業高等学校生徒)、A秋田(秋田大学学生/秋田県自治研修所研修生)、B岩手(花巻南高等学校生徒)、C福島(喜多方女子高等学校生徒)、D中部地方(富山大学学生)、E近畿地方(京都橘女子大学学生/神戸山手女子短期大学学生)、F熊本(熊本高等学校生徒)である(いずれも当該地域内出身者)。調査は、「〜バ」を含む各調査文について、「自然である」「やや不自然であるが許容できる」「不自然である」のうち、当てはまるものを選んでもらうというものである。(1)「仮定条件文で後件が叙述文であるもの」、(7)「反事実条件文」、(12)「一般条件文」、(13)「仮定条件を表すソウスレバ」が、標準語の「〜バ」にとって適格な用法であり、それ以外は不自然だとされるものである。
 今回の調査地域のうち、<中部地方>の調査結果は、ほぼ標準語的な適格性の度合が示されたものと言える。(1)(7)(12)(13)については、いずれも高い割合で「自然」であるとされ、「不自然」とする回答はほとんど見られない。一方、標準語では不適格だとされる(9)(11)の「警告文」の用法は、警告文として機能させない解釈が可能であるため、ある程度、許容されている。それ以外の項目については、「許容できる」とする回答がある程度見られるものもあるが、「自然」だとする回答はいずれも5%にも満たない。
 それに比して<青森>、<秋田>の回答は、かなり傾向を異にする。(1)(7)(12)(13)に加えて、「警告文」の(9)(11)の許容度もかなり高い。また、(8)(10)の「禁止文」、(2)の「モシカスレバ」、(14)(15)の「接続詞的なソウスレバ」の許容度も<中部地方>と比較すると非常に高いものと言える。<青森>と<秋田>で傾向がやや異なるのは、<秋田>では、(3)(5)の「主文が要求文になる仮定的条件文」と(4)(6)の「継起的条件文」が、<中部地方>と変わらない程度の許容度で、やはり「不自然」とされているのに対して、<青森>ではかなり許容度が高い。特に(3)(5)の「主文が要求文になる仮定的条件文」の許容度の高さには顕著なものがある。
 <岩手>、<福島>、<熊本>については、調査文(2)(モシカスレバ)の許容度がやや高いのが目立つ以外は、いずれの項目も<中部地方>の結果とほぼ同様であった。<近畿地方>についてはやや様相が異なり、(3)(5)の「主文が要求文になる仮定的条件文」と(4)(6)の「継起的条件文」の許容度がやや高い。これは、近畿地方が、一般的に仮定表現に「〜タラ」を専用する地域であり、「〜バ」を文体的な変種、即ち「〜バ」は標準語的で改まった表現であると意識する傾向があることにより生じた結果ではないかと考えられる。ただしその場合も、「〜タラ」で表現できるすべての用法が「〜バ」で置き換えられると意識されてはおらず、「警告文」や「禁止文」では<中部地方>と同様の低い許容率となっている。
 ここで、「〜バ」の用法について、地理的な広がりを確認しておこう。「モシカスレバ」については、<岩手>、<福島>、<熊本>の調査結果から、あるいは日本の東西の両端の地域に存在する用法である可能性も示唆される。「警告文」「禁止文」での「〜バ」の使用と「ソウスレバ」の接続詞的用法は、<岩手>、<福島>での許容度が<中部地方>のそれとほぼ同様であることから、東北地方の中でも<青森>、<秋田>に特徴的な表現であると言えそうである。
 この調査は、標準語の「〜バ」の適格性を問うものであるが、今回の調査で対象とした地域、特に<青森>、<秋田>の若年層では、方言的な「〜バ」の用法が、彼らの標準語の中にもかなりの割合で反映していることが明らかになった。

 【参考文献】
日高水穂(1999)「秋田方言の仮定表現をめぐって−バ・タラ・タバ・タッキャの意味記述と地域的標準語の実態−」『秋田大学教育文化学部紀要』54
前田直子(1996)『日本語複文の記述的研究−論理文を中心に−』大阪大学博士(文学)取得論文
三井はるみ(1998)「方言の条件表現−『方言談話資料』と『方言文法全国地図』からの研究の可能性−」『国立国語研究所創立50周年記念 研究発表会資料集』国立国語研究所

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