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調査文] [調査地 秋田

●東北方言の助詞サの用法-1……秋田


 東北方言の「指標」とも言える助詞「サ」であるが、これには、本来的な「移動の方向・着点」を表す用法と、そこから派生し、使用されるようになった用法とがある。その用法の広がりには東北地方の中でも地域差があり、さらに現在は世代差も顕著である。ここでは、標準語の「ニ」の用法に対応させて「サ」の許容度を見る、という方法で、「サ」の用法の広がりを調査した。回答者は、秋田大学学生(秋田県内出身者)である。
 まず、最初に「ふだん「サ」を使用している」という意識を持っているかどうかを問い(問T)、「使用者」には「「サ」を使うかどうか」、「非使用者」には「「サ」が使えると思うかどうか」を「使う」「使わないが不自然ではない」「使わないし不自然である」のうちから選んで答えてもらった(問U)。問Tの結果は、秋田県内出身者122名中、「使用者」82名(67.2%)、「非使用者」40名(32.8%)であった。問Uの結果は、「使用者」「非使用者」それぞれに集計し、「使用者」グループで「許容回答率(「使う」「使わないが不自然ではない」の回答率の合計)」の高いものから調査文を並べ替えて示した。
 用法別の回答傾向の特徴は、「東北方言の助詞サの用法-2」で詳しく述べることにし、ここでは、「使用者」グループと「非使用者」グループの回答傾向の比較を行いたい。「使う」回答が「使用者」グループに高く「非使用者」グループに低いことは当然のことと言えようが、「使わないが不自然ではない」を加えた「非使用者」グループの許容回答率には、「使用者」グループのサの使い分けにほぼ一致する差が見て取れる。すなわち、秋田県内出身者にとっては、「「サ」を使わない」と意識している者であっても、「サ」の用法について、「使用者」とほぼ同様の内省が可能であるということになる。その中で、やや傾向を異にして「非使用者」グループでの許容回答率が低いのが、(19)「この服は私サは合わない」、(30)「おにぎりサはお茶が合う」、(23)「今年の暑さサはまいった」である。これらはいずれも調査文が「〜サは」となっているものである。秋田方言では提題助詞「ワ」が用いられず、「ダバ」が用いられるため、これらの調査文は方言的表現では「〜サダバ」となるところである。質問文では「文章全体を方言になおして考えてください」という指示を与えているのであるが、こうした標準語翻訳方式による調査文を方言的表現に置き換えて回答できる能力が、この調査の場合の「使用者」グループと「非使用者」グループの違いとして現れたものと言える。
 この調査は、「東北方言の助詞サの用法-2」の調査に対する準備調査的なものとなった。すなわち、「サ」の使用については、「使う」「使わない」の二段階で調査しても用法別の使用率の差が明確に現れるであろうという見通しが立ち、秋田県内出身者であれば「使用者」と「非使用者」を分けなくても用法別の使用率の違いは現状を反映したものが得られるであろうと予想され、また、調査文では「サ」に隣接する表現は方言的な表現を併記するなどして内省を助ける必要があるという方針が立ったのである。


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