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調査文】 【調査地 秋田(推量)(確認要求)・(意志)・(勧誘)

●推量・意志の表現……秋田

 文末詞「ベ」もまた、東北方言の「指標」とも言える表現である。ここでは、「ベ」の意味用法に大きく関わる推量・意志の表現について、使用可能な形式を選択肢の中から選ぶという調査を行った。選択肢にあげた語形は、「推量@(一般的な推量)」「確認要求」の調査文((1)〜(3)・(7)〜(9))では、ダロウ形、ベ形、「推量A(疑問詞を含む推量)」の調査文((4)〜(6))では、ダロウ形、ベ形、ンダロウ形、ンダベ形、「意志」「意向の問いかけ」「勧誘」の調査文((10)〜(15))では、シヨウ形、スル形、ベ形、ベシ形である。集計の際は、「その他」にあげられた語形も含め、変異形をまとめて分類し、使用率を求めた。回答者は、秋田大学学生(秋田県内出身者)である。
 「推量@」「推量A」「確認要求」では、動詞述語、名詞述語、形容詞述語のそれぞれについて調査文を設定したが、回答された形式の使用率に大きな差はなかった。ただ、「推量A」の形容詞述語文でベ形が多く回答され、相対的にンダベ形の使用率が抑えられているのには、秋田方言の形容詞の形態的特性が関わっているものと思われる。秋田方言の形容詞は、「寒い」であれば「サビ(寒い)」「サビ+グ(寒く)」「サビ+ガッタ(寒かった)」「サビ+バ(寒ければ)」のように、終止形に当たる形式が語幹的な機能を持ち、独立性の高くなった語尾が後接して“活用”する。終止形が語幹的、すなわち体言的な性質を持つことが、「ノ」による述語の体言化が必要な「推量A」の用法で「ノ」を介さずにベ形が用いられやすいことの要因となっているものと思われる。ベ形の使用率を用法別に見ると、「確認要求」での使用率が8割弱、「推量@」が7割前後、「推量A」がベ形3割前後、ンダベ形5割前後となっている。なお、「ベ」による推量形には、終助詞「モノ」が後接したビョン形(ベオ、ベオンなどの変異形がある)があるが、これは「推量@」での使用に限られ、「推量A」「確認要求」には用いられない。
 「意志」「意向の問いかけ」「勧誘」では、ベ形の使用は「勧誘」の用法に片寄る傾向がある。「意志」「意向の問いかけ」では、標準語的なシヨウ形のみならず、スル形が多く用いられている。これは、老年層を含め、秋田方言(ただし秋田市を中心にした中央方言に限る)の特徴である。なお、老年層ではベシ形が勧誘の場合に特に現れやすいのであるが、若年層のベシ形の使用率は一律に低い。

 【参考文献】
 佐々木雅典(1999)「秋田県横手・平鹿方言の終助詞「シャ」の意味分析」『秋田大学ことばの調査』第1集
 玉懸 元 (1998) 「仙台市方言における「ベー」の用法について」 『日本方言研究会 第66回 研究発表会 発表原稿集』
 橋本(舩木)礼子 (1999) 「方言助動詞「ベー」の用法とその変遷」 大阪大学修士論文

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